1. はじめに
第2話では、輸送・通信費用が変化したときに、それに対して都市がどのように反応するのか、過去50年間(1970-2020年)に日本の都市が経験した事実を示し、それを理論に基づいて説明しました。
第3話の前編では、そもそもなぜ人が集まって暮らす都市ができるのか、なぜ様々な人口規模の都市ができるのか、どのように都市の配置が決まるのかを、データと理論を使って説明します。1 後編では、国全体と国内の地域が、都市人口分布のべき乗則を伴う相似構造を持つしくみを説明します。
2. 人と店や企業が集まって街ができるしくみ
都会には様々な料理を提供するレストランが、互いに競争相手であるにも関わらず集まっています。なぜ、そのような集積が生まれるのか、考えてみましょう。2 このような集積は、「消費者の多様性嗜好」、「輸送費用」、「店舗レベルでの規模の経済」という3つの要素の下で、図1に示す循環から生まれます。第1の要素「消費者の多様性嗜好」とは、消費者が多様性を好むことです。これは、毎月外食に同じ金額を使うとしても、レストランの選択肢が多いほど、消費者は嬉しいという性質です。第2の要素「輸送費用(あるいは交通費用)」の存在も必要です。移動に全く時間も金銭費用もかからなければ、そもそも集まる理由がないからです。第3の要素「店舗レベルでの規模の経済」とは、販売量(規模)が大きいほどコスパが良いという意味です。例えば、店舗には最小限の規模があります。このとき、たくさん売るほど店舗当たりの売上は増え、売上1円当たりの費用は減ります。
では図1を使って、レストランと消費者である住民が集まって街ができるしくみを考えてみましょう。ある街に出店するレストランの種類が増えた(バラエティが増えた)とします (図1A)。「種類が増える」あるいは「バラエティが増える」とは、例えば、同じハンバーガー・チェーンの店舗が複数できるのではなく、「中華」と「イタリアン」など、互いに差別化された料理を提供するレストランが増えることを意味します。すると、住民(消費者)の選択肢が増え、同じ支出額の下でも満足度が上がります (実質的な所得が上昇すると言います)(図1B)。満足度が上がった街には、新たに住民が集まってくるでしょう (図1C)。彼らがわざわざ引っ越してくるのは、レストランを訪れるための交通費用を節約しようとするからです。ドラえもんの「どこでもドア」があって、瞬時に離れた地点間を移動できるなら、そもそも誰も引っ越しする必要はありません。新たな住民も多様性を好むので、彼らはどのレストランも満遍なく利用します。3 その結果、個々のレストランの売上は一様に増えます (図1D)。街により多くの消費者が集まれば、個々のレストランの売上は増え、利潤も増えます。その利潤が十分に大きく、新たに需要を分け合う店舗がひとつ増えたとしてもなお、個々のレストランの売上が営業費用を上回るとき、この街に新しい出店が起こる余地が生まれます。こうして、この街のレストランのバラエティが増えます(図1A)。この新店の開業にあたり、3つ目の要素である「規模の経済」が必要条件になります。もし、店舗をいくらでも小さくできるなら、消費者の分布に合わせて極小の店舗を全国万遍なく展開し、集積することなく、各消費者の目の前で営業することが、立地として最適です。しかし、実際には、レストランの営業にはある程度の規模の店舗が必要なため、どこか一つの場所に立地を決めなければなりません。多数の店舗が同じ場所を選ぶとき、集積が生まれます。こうして、A→B→C→D→Aとループが完結したら、あとは雪だるま式にレストランと人口の集積が進みます。
実際には、街ではレストランだけでなく、様々なモノやサービスが供給され消費されています。異なる業種が集まって街は都市になり、集まる業種によって都市の人口規模に差が生じます。次節では、街から都市ができ、都市間で人口や産業構造に違いが生まれるしくみを説明します。
3. 産業が集まる街が束になって都市ができるしくみ
レストランの集積はどこまで進むのでしょうか。それは、レストラン間の料理・サービスの差別化の程度や、輸送費用の程度によります。様々なモノ・サービスに対する金銭的・時間的な輸送費用が同じ場合でも、消費者は、モノ・サービスの種類によって、輸送費用を割高に感じたり、逆に割安に感じたりします。レストランの場合は、消費者が自ら店舗に出向いて食事をします。このとき、実際に消費者が支払うのは、食事代にレストランまでの交通費を加えた額です (正確には時間費用も含まれます)。価格の変化に対して需要が変化する比率のことを、「需要の価格弾力性」といいます。消費するモノやサービスによって、需要の価格弾力性は異なります。例えば、ランチに利用するレストランを決める場面を想像してみてください。30分歩いたらお気に入りのレストランがあるとしても、日常的なランチなら、つい近場の店舗を選んでしまうのではないでしょうか。しかし、それが洋服の買い物となると、1時間かけて電車に乗り、少し遠くの街のブティック(衣料品店)まで足を伸ばす気になることもあるでしょう。さらに、大好きな演劇を観るためなら、新幹線を使って2時間以上かけて劇場に通う人もいるでしょう。このように、「消費にかける時間」の違いは、モノ・サービスの価格に対する需要の弾力性の違いによって生じます。レストランの需要は価格が少し上がっただけで(あるいは少し距離が離れるだけで)、簡単に下がります。逆に、特定の劇団の舞台のように代わりが簡単に見つからないサービスの場合は、少々価格が上がっても需要はあまり変化しません。ブティックはその中間です。また、需要の価格弾力性が小さい(つまり、価格の変化に対して需要の変化が小さい)業種ほど、その業種が供給するモノ・サービスの差別化の程度が高いと考えられます。
話を単純化して、消費者は、食事ならせいぜい15分まで、洋服を買いに行くなら1時間、演劇を観に行くなら2時間移動することを厭わないとしましょう。すると、レストランなら、半径15分圏内に立地がなく、かつ、その範囲に十分な消費者がいれば、そのレストラン空白地帯に新しいレストランが出店する動機が生まれます。それがブティックなら半径1時間となり、劇場なら2時間になります。別の言い方をすれば、レストラン街は30分間隔にひとつ (図2C)、ファッションビルなら2時間間隔にひとつ (図2B)、劇場街なら4時間間隔にひとつ(図2A)の頻度で形成されます。
では、異なる業種はそれぞれ別の街に立地するでしょうか。多くの場合はそうではありません。なぜなら、演劇・ブティック・レストランの客は共通だからです。それぞれの業種の集積は人口集積を伴いますから、需要も集積します。ブティックを開く、あるいはファッションビルを建てるならば、レストランが集まる街を選ぶでしょう。同様に、劇場を建てるなら、ブティックやレストランなど様々な業種が集まる街を選ぶでしょう。つまり、共通の消費者を介して異なる業種が同じ街に集積します。業種間で集積間隔が異なるので、図2Dに示すように、異なる業種の立地に階層的な構造が生まれます。劇場がある街にはブティックもあり、ブティックがある街にはレストランもあります。逆に、レストランがあってもブティックも劇場もない街があり、ブティックがあっても劇場がない街があります。より多くの業種が集まる都市には消費者も多く集積し、大都市になります。東京は、多数の業種の集積が束になって都市ができるイメージをつかみやすい例です。秋葉原は電気屋街のほか、様々なサブカルチャーの集積地です。神保町には古書店が集まり、その隣の御茶ノ水には楽器店が集積しています。それらが束となって東京という大都市を形成しています。
このように、代わりが見つかりやすいモノ・サービスは、大小を含むより多数の都市で供給されます (図2Dの黄色の業種)。一方で、代わりが見つかりにくいモノ・サービスは、より少数の大都市でのみ供給されます(図2Dの赤・青色の業種)。都市の視点では、小都市に立地する産業は大都市にも立地するという、大小都市間で産業構造の包含関係が成り立ちます。結果として、人口が大きい都市ほど数が少なく、互いに離れて形成され、図2Eに示すように、ひとつの大都市とそれを取り囲む小都市群がまとまって、異なる種類のモノ・サービスの商圏が重なる経済圏ができます。一つの経済圏の内部では、個々の小都市がそれを取り囲むさらに小さい都市群とともに小規模な経済圏を作り、地域経済圏の相似的な構造が生まれます。逆から見れば、個々の地域経済圏は、周辺小都市群の上に大都市が立つという「一極構造」を持ち、その大都市は、さらに大きな都市を中心とした経済圏の一部となっています。つまり、地域経済は、「大都市と周辺小都市群」の「一極構造」が入れ子を成しています。
4. 実際の都市の人口・配置と産業構造
実際の産業立地がどのくらい理論に整合4 しているのか、NTTタウンページの事業所立地データを使って確認してみましょう。5 このデータは、2020年10月1日時点でNTTタウンページに掲載されている全事業所(官公庁を除く)のうち、分析対象地域6に含まれる1,858業種の事業所立地を含んでいます。2020年時点で存在する個々の都市について、都市内に少なくとも1つ事業所が立地する業種を、その都市の「立地産業」、その都市に立地するすべての業種の集合を、その都市の「産業構造」と呼びましょう。
大小都市間の産業構造の包含関係
前節の理論の下では(図2D参照)、大小都市間に図3Aに示すような産業構造の包含関係ができます。しかし、現実は全く理論通りというわけではないので、7 全ての大小都市ペアについて産業構造の包含関係が完全な形で成り立つことはありません。理論が現実をよく捉えている場合でも、多くの場合は図3Bのように、包含関係がおおよそ成り立っている状態です。ですから、理論を実証するときには、(今回の場合に限らず)少しおおらかに、理論と現実の整合性を定義する必要があります。
そこで、図3Cに示すように、小都市の立地産業が大都市の立地産業に含まれる割合、「共通産業シェア」を計算してみます。共通産業シェアは0と1の間の値をとり、値が1に近いほど理論により整合し、値が1のときに理論と完全に整合します。例えば、人口規模が第1位の東京について、第2位の大阪以下430都市のそれぞれとの間で共通産業シェアを計算すると、その430個の共通産業シェアの平均値は99.8%となります。つまり、他の都市にあって東京にない業種は、平均で1000のうち2つだけということです。第8位(人口131万人)の仙台では97.2%、第39位(人口28万人)の高知では92.6%、第409位(人口13,000人)の久慈では65.7%と、人口が小さい都市ほど、理論との整合性は低くなります。小都市ほど、自身と自身より小さい都市との間の人口差が小さくなり、産業数が似てきますので、これは自然な結果です。
図4は、2020年時点で存在する431都市のうち、人口1万人以上(全都市)、人口5万人以上、人口10万人以上の各都市について、各都市ペアについて計算した共通産業シェアの分布を描いています。8 破線の位置が、それぞれの都市グループについての分布の平均値です。人口1万人以上の都市の場合(青のグラフ)、共通産業シェアは平均68.3%で、理論との整合性はやや低いですが、人口5万人以上の都市では平均84.5%(オレンジのグラフ)、人口10万人以上の都市では平均90.2%(緑のグラフ)と、大小都市間の産業構造の包含関係が鮮明に表れ、実際の都市の産業構造は前節の理論とよく整合しています。9
都市の人口・配置・産業構造の関係
次に、都市の人口と地図上での配置、そして産業構造の関係を見てみましょう。図5 A, B, Cの地図上の黄色の丸印はそれぞれ、2020年時の人口10万人以上の83都市、人口50万人以上の21都市、人口100万人以上の11都市の位置を示しています。各都市を含む色分けした領域(セルと呼びます)は、地図上の各1kmメッシュを最も距離が近い都市に割り当てて色分けしたもので、近似的に個々の都市の後背地を示しています。10 セルの面積が都市間距離の目安になります。大きい都市ほど数は少なく、互いに離れて形成されていて、11 都市の人口・数・配置の関係は、おおよそ理論に従っていると考えられます。
都市の人口規模による産業構造の違いはどのようなものでしょうか。人口10万人以上の都市に立地する業種は348あります(人口50万人以上の都市にしか立地していない業種を除く12)。 それらには、例えば、外食では「お好み焼き店」「すし店」「ラーメン店」、小売では「ホームセンター」「めがね店」、医療系では「内科」「外科」「小児科」といった、日常的に消費・利用するモノ・サービスを供給する業種が多く含まれます。
人口50万以上の都市にしか立地していない業種は428あり、外食では「ふぐ料理」「懐石料理」「韓国料理」、小売では「外車販売」「和楽器」「茶道具」、医療系では「アレルギー科」「呼吸器内科」「心療内科」「脳神経外科」など、より専門的な業種が含まれます。サービス業では、「映画館」「ライブハウス」など、十分な集客が必要な、規模の経済が大きい業種が登場します。さらに、「金属切削加工機械」「自動車部品製造」など機械製造業や、「システムインテグレーター」「事務代行サービス」「人材紹介所」などのビジネスサービス業が含まれることも特徴です。
人口100万人以上の都市に固有な業種には、「自動車製造」「化学工業用機械」など大型機器の製造業、「専門図書出版」「テレビ番組企画・制作」などメディア関係、「機械貿易」「食品貿易」など貿易関係の業種が含まれます。このように、大都市には、小都市に立地している産業に加えて、より特殊な業種が立地していることが分かります。この事実も、第3節の理論に整合します。
5. 産業立地と都市人口の間に生ずる秩序
産業立地と都市の人口規模の関係について、より直接的に見てみましょう。図6は、第4節で使ったNTTタウンページに掲載されている1,858業種について、それぞれの立地都市数(横軸)と立地都市の平均人口(縦軸)の関係を示しています。縦横軸とも対数軸ですので、どちらも同じ比率が同じ長さで表しています。描かれた青い点のひとつひとつは、ひとつの業種に対応しています。破線は、横軸の各立地都市数に対して、その数の都市の平均人口がとり得る値の上限と下限を示しています。13
注目してほしい点が2つあります。1つは、ほとんどの業種について、立地都市の平均人口がほぼ上限値である点です。図に示している赤い帯は、平均都市人口の下限から上限までの幅の上位5%の領域です。14 全1,858業種の94%が、この範囲に含まれています。立地都市数が5以上の業種なら97%、10以上の業種なら98%、20以上なら99%です。 つまり、ほとんどの業種について、おおよそ、最大都市から順に立地しているということです。例えば、その業種の立地都市数が3なら、それら3個の都市は人口について上位3都市、東京・大阪・名古屋だということです。この結果は、第3節の理論とよく整合しています。都市数が小さい業種の中には、平均都市人口が上限値から大きく離れるものがありますが、それらは、「養蚕」「博多織」「練炭」など、自然条件や歴史的経緯による特産品であることが特徴で、数は少なく、例外と言えるでしょう。
もう1つの点は、都市の平均人口の上限値がおおよそべき乗則に従っていることです。実は、大小都市間に産業構造の包含関係があり、かつ、産業が立地する都市の平均人口がべき乗則に従うとき、15 都市人口分布もべき乗則に従うことが理論的に分かっています。16 まさに、個々の産業が集積して街ができ、複数の産業が集積する街が束になって都市ができ、集積する産業の数の違いから都市の人口規模に差が生じ、結果として、べき乗則に従う都市人口分布が形づくられていく様子が、この図に表れているように見えませんか。17 つまり、図6は、図3で説明した産業間の違いが、都市の人口の違いを決めている可能性を示唆しています。
次に、図6が示すような秩序は、「都市」という地域単位で産業や人口の立地を捉えて初めて現れる秩序であることを示します。図7と図8はそれぞれ、地域単位を都市から都道府県と市区町村に変えて、図6と同様なグラフを描いたものです。18 「都市」を通して見えた産業立地の秩序は、都道府県や市区町村という地域単位では全く見えません。つまり、地域単位を都市とした場合には、産業の立地都市がおおよそ人口規模の上位都市であった(多くの業種が赤の帯に含まれた)のに対して、地域を行政区とした場合には、そのような明確な関係はありません。
最後に、産業以外の経済活動として、研究開発活動の立地を見てみましょう。2000年から2019年の10年間に日本で出願された特許のうち、2020年時点の都市で出願された約400万件の特許データを使います。産業立地と同様に、特許は技術的な特性を元に分類されています。ここでは、国際特許分類で定義される「サブクラス」と呼ばれる分類で、出願された特許の種類を区別します。都市に立地する個人あるいは事業所から出願された特許が属するサブクラスは、634あります。図9は、図6の「産業」を「特許分類(サブクラス)」に、「事業所」の立地都市を「特許出願者」の立地都市と読み替えて描いたグラフです。99%以上の特許分類について、それらの出願者の立地は、図の赤の帯の内部に含まれています。図6の産業集積の場合を凌ぐ、とても明確な秩序がここにあります。これだけ明確な秩序が生まれるのは、特許分類数がNTTタウンページの業種数の約3分の1と少ないことも理由のひとつですが、19 第3節で説明した理論は、産業だけではなく、より一般的な経済活動の集積に当てはまることが分かります。
経済現象でこれだけ明確な秩序が現れるのは極めてめずらしいことです。この事実は純粋に科学的に興味をそそりますが、それだけでなく政策的にも利用価値があります。なぜならこの事実は、産業であれ研究開発であれ、どのような種類の経済活動がどの都市に立地し得るのか、あるいは、個々の都市で維持できる経済活動はどのようなものなのかについて、都市の人口規模によって、かなりの部分が決定されていることを示唆しているからです。つまり、都市の人口さえ分かれば、個々の都市がどのような産業や研究開発投資で成功し得るのか、およそ特定できるということです。大小都市間の産業構造がおおよそ包含関係にあるということは、個々の産業にとって、ちょうどそれ以上の人口の都市ならば立地できるという、都市の人口規模について、しきい値20があることを意味します (図10)。第3話の執筆時点ではまだ試していませんが、この秩序を利用して、現在の都市の産業構造を言い当てたり、将来の都市の産業構造の変化を予測することが可能であると考えています。21 今後結果が出た際には、コラム内でも紹介する予定です。
6. 後編に向けて
前編では、様々な産業と人口の立地の調和によって、「大都市と周辺小都市群」という地域単位が、産業の商圏をベースにまとまった地域経済圏を作ることを理論的に示し、実際の経済が理論に整合することを示しました。後編では、国全体と国内の地域という「全体」と「部分」の間で、都市人口分布のべき乗則を伴う相似構造が生まれる事実を紹介します。そして、経済理論を使ってその秩序を再現します。
- 本節の説明は、1933年に書籍化された、地理学者Walter Christallerによる「中心地理論」のアイデアを、Fujita, Krugman & Mori (1999), Tabuchi & Thisse (2011), Hsu (2012)などが現代経済学の枠組の中で再構築した、現代版の中心地理論の最新の研究成果、 Mori, Smith & Hsu (2020)とMori, Akamatsu, Takayama & Osawa (2023)に基づきます。 ↩︎
- 集積のしくみの説明は、消費者向けのモノやサービスを供給する3次産業(小売・サービス産業)を例にすると直感的に分かり易いですので、例では3次産業を多用します。ややしくみは複雑になりますが、同様のしくみは、2次産業(製造業)にもおおよそ当てはまります。 ↩︎
- 個々の消費者が多様性を好むのではなく、好みの異なる消費者が多数いると考えることもできます。大勢の消費者が集まれば、様々な好みの消費者が含まれますので、街レベルでレストラン需要を合計すると、個々の消費者が多様性を好む場合と似た結果になります。 ↩︎
- 「整合」とは、「ぴったり合っている」ことを表す言葉です。 ↩︎
- NTTタウンページデータベース (NTTタウンページ株式会社)から提供された、NTT東日本・NTT西日本が発行する職業別電話帳(タウンページ)に掲載される事業所の緯度経度情報を利用しています。 ↩︎
- 分析対象地域は、前話と同様に、本州・九州・四国・北海道と、それらと道路で接続した地域です。 ↩︎
- 歴史的な経緯で、特定の産業がある小都市に集中して立地している場合があります。例えば、鯖江(福井県)は、販売額ベースで、日本のメガネフレームの9割以上のシェアを持つと言われています。また、データに一貫性が欠けている場合もあります。例えば、同じイタリア料理のフランチャイズに属する異なる店舗が、NTTタウンページに「イタリア料理店」で登録する場合と「ファミリーレストラン」や「ピザハウス」で登録する場合では、これらは異なる業種として認識されるため、各業種の立地パターンに影響を与えます。 ↩︎
- 正確には、個々の都市について、その都市より人口が小さいすべての都市との間の共通産業シェアを計算し、その平均値を求めています。図4は、この共通産業シェアの平均値の分布です。 ↩︎
- 政府統計の「事業所・企業統計調査」や「経済センサス」を使った分析は、Mori, Nishikimi & Smith (2008), Mori & Smith (2011)で行っています。また、アメリカのデータを用いた分析は、 Mori, Akamatsu, Takayama & Osawa (2023)にて行っています。いずれの場合も、NTTタウンページデータを使った場合と同様の結果になります。 ↩︎
- 図5Aでは、各セルには人口10万人以上の都市が一つ含まれていて、セルの範囲は、セル内部のどの地点にとっても、その都市が人口10万人以上のすべて都市の中で最も近い都市となるように決めています。このような地域分割のことを、(都市に関する)ボロノイ分割と呼びます。 ↩︎
- 都市の分布は、東京以西に比較的偏っていますが、それは、東西日本が自然条件や歴史的な経緯において異質だからです。 具体的には、まず気候の違いがあります。西日本は、「西」にあるだけでなく、日本の南部でもあります。そのため、気候が温暖で、比較的標高が高い地域でも多く人が居住しています。しかし、東北や北海道はそうではありません。また、歴史的にも、日本の文明は長く西日本中心に発展してきて、街道を始めとする道路網などの交通インフラも、歴史の早い時点で広く存在しています。現代の交通網の構造は、歴史的な街道網の構造を反映しています。このような背景が、現代でも経済の中心が西よりにあることの理由の一部だと考えられます。 ↩︎
- 人口10万人規模の都市と人口50万人規模の都市の産業構造を比べるとき、「人口50万人以上の都市にのみ立地する業種」は、正確には、人口50万人以上の都市のうち95%以上に立地し、人口10万人以上の都市のうち95%未満にしか立地しない業種を指します。データにノイズがある場合には、このようにある程度曖昧さを許容した場合分けをすることで、かえって本質的な違いを明確にできることがあります。 ↩︎
- 2020年時の全431個の都市のうち、例えば、3個の都市の平均人口の上限値は、人口について上位3位まで、つまり、東京・大阪・名古屋の平均人口約1,880万人です。同様に、下限値は下位3位まで、つまり、杵築(大分県)・大淀(奈良県)・大洲(愛媛県)の平均人口10,096人です。 ↩︎
- 赤い帯の範囲は、正確には「0.95×(上限-下限)+下限」から上限値までの幅です。 ↩︎
- 大小都市間で産業構造の包含関係が成り立つとき、産業の立地都市の平均人口の分布は、立地都市の平均人口の上限値の分布でもあります。 ↩︎
- Mori, Nishikimi & Smith (2008, p. 192, 196)の定理1および補題1で証明しています。 ↩︎
- 同様の結果は、政府統計の経済センサスなどで使われる、日本標準産業分類でも得られます (Mori, Nishikimi & Smith, 2008; Mori & Smith, 2011, Mori, Akamatsu, Takayama & Osawa, 2023)。また、アメリカの場合なら北米標準産業分類の下で得られています (Hsu, 2012; Mori, Akamatsu, Takyama & Osawa, 2023)。Schiff (2014)は、アメリカのレストランに限って同様の結果を得ています。 ↩︎
- 分析対象地域には、沖縄を除く46都道府県と2020年10月1日時点の1,863市区町村が含まれます。 ↩︎
- 特許分類のサブクラスより細かい分類にサブグループがあります。都市に立地するものに限ると、同じ2000年から2019年の間に49,113分類あり、サブクラスの77倍の分類数です。その場合でもその86%が平均都市人口のとり得る値の範囲の上位5%(図9の赤帯部分)に含まれます。従って、立地都市の数と平均人口の間には、同様の秩序が存在すると言えます。 ↩︎
- 「しきい値」とは、ある性質が満たされるか満たされないかを分ける境界の値を意味します。 ↩︎
- 都市の人口に加えて、気候の違いや人口の年齢構成などについての地域差まで含めると、高い精度で産業の立地を特定できると予想しています。 ↩︎