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24/07/18 東京一極集中はどこまで進むのか?

今後、各地域レベルで大都市への極化は進んでいくでしょう。その理由のひとつには、輸送・通信技術の進歩があります。物理的な輸送では自動運転や物流の自動化が進み、物理的な輸送費用(特に人件費)が激減するでしょう。通信では仮想現実の技術が進歩し、物理的な移動の必要性がますます低下するでしょう。実際に移動することなく現地を訪問したり、会わずして相手の表情の機微を読み取れるほどの、仮想的な3次元移動が可能になる日も近いかも知れません。輸送・通信費用の低下は、国レベル、地域レベルで経済活動の大都市への集中を促します。べき乗則の下では、より大きい都市により集中が進むため、東京一極集中が進みます。

 人口減少で、大都市への極化はさらに勢いを増すでしょう。様々な理由がありますが、ひとつの大きな要因はやはり輸送費用です。新幹線や航空機によるマス輸送は、人流や物流の密度があって初めて、その利便性が発生します。輸送需要が集中するほど効率が良くなり、つまり「規模の経済」が働きます。逆に、人口が減れば、運行頻度は減り、利便性が下がります。加えて、人口が多くても少なくても、これらのマス輸送を支える交通インフラの維持にかかる費用はあまり変わらないので、人口が減れば、人口一人当たりの維持費用は増加します。従って、物理的な輸送の利便性もまた、人口規模・密度が比較的保たれる大都市に極化していくことになります。このことが、大都市へのさらなる人口集中を促します。

 私たちの予測は、過去50年(1970-2020年)の輸送・通信費用の減少がそのまま将来も続くという想定の下で行われています。しかし、上述のような思考実験をすると、この予測は、国レベルや地域レベルで起こる大都市への極化を過小評価している可能性が高いと考えられます。実際には、より多数の小都市が消滅し、残った大都市はより大きな人口シェアを持つようになるでしょう。

 では、一体どのくらい大都市への集中は起こりえるのでしょうか。図1は、社人研による全国人口の中位推計と低位推計の下での、東京と、大阪・名古屋を含む3大都市の人口シェアの推移を、図2はそれぞれの人口の推移を示しています (予測モデルは7月15日時点最新版; 1970-2020年は実績値)。

 2020年時点での東京の人口(人口シェア)は3,419万人 (28%)、3大都市は5,656万人(46%)です。中位推計の下では、2070年にはそれぞれ2,881万人 (34%)と4,691万人 (55%)、2120年には1,855万人(38%) と2,922万人 (60%)まで減少します。低位推計の下では、2120年に、東京の人口 (人口シェア)は1,389万人 (41%)、3大都市は2,108万人 (61%)まで減少します。

 中位推計の下での2120年の全国人口は5,100万人ですので、おおよそ今の韓国くらいの規模です。韓国では、最大のソウル都市圏に人口の約半分が集中しています。韓国は日本に比べて国土が狭いことも、ソウルの人口シェアが東京より大きい一つの理由として考えられますが、将来、物理的輸送の利便性が大都市に限られてくると、100年後の東京への人口集中が、あるいは今の韓国におけるソウルへの集中くらい進む可能性はあると思います。

 注意が必要なのは、50%近い人口が東京に集中しようとも、その人口規模は、現在の東京にはるか及ばず、せいぜい、現在のソウル都市圏程度、つまり2千数百万程度だということを認識することです。都心の人口密度は、人口よりさらに大きく減少するでしょう。東京と地方の間の輸送需要も大きく減ります。

 マス輸送の利便性の維持には、人口シェアではなく、人口規模そのものが必要なのです。このような将来に、本当にリニア新幹線が活躍できるのか、都心をさらに高層化することに意味があるのか、官民ともに、ここまでの人口減少を想定せずに計画してきた事業を、今後もそのまま進めるのが良いのか、改めて考えるべきではないでしょうか。

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